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札幌地方裁判所 平成9年(行ウ)3号 判決 1999年3月19日

札幌市清田区清田五条二丁目三番一三号

原告

佐々木昭次

右訴訟代理人弁護士

猪股貞雄

札幌市豊平区月寒東一条五丁目三番四号

被右

札幌南税務署長 桜井博夫

右指定代理人

千葉和則

成田英雄

藤部富美男

沢田和宏

川村利満

市川光雄

神陽一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  原告の平成三年分の所得税について、被告が平成五年六月三〇日付でなした過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

2  原告の平成四年分の所得税について、

(一)  被告が平成五年六月三〇日付でなした更正処分のうち、一九八万九三〇〇円を超える部分を取り消す。

(二)  被告が平成五年六月三〇日付でなした過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、会社役員であるが、平成三年分及び平成四年分の所得税につき、確定申告書に別表1の「確定申告欄」記載のとおり記載して、いずれも法定申告期限内に申告した。

2  原告は、平成五年六月二四日、右平成三年分及び平成四年分の確定申告につき、別表1の「修正申告欄」記載のとおりとする修正申告書を提出した。

3  被告は、平成五年六月三〇日付で、

(一) 平成三年分の修正申告に対して、別表1の「賦課決定処分」欄記載のとおり、一七八万三〇〇〇円の過少申告加算税の賦課決定処分をし、

(二) 平成四年分の修正申告に対して、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、納付すべき税額を三八三七万一八〇〇円とする更正処分をし、五四五万七〇〇〇円の過少申告加算税の賦課決定処分(以下、更正処分と併せて「更正処分等」という。)をした。

4  原告は、右更正処分及び右各賦課決定処分につき、平成五年八月三日、札幌国税局長に対して異議申立をしたが、同年一〇月二八日、異議申立棄却決定を受け、同年一一月二四日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、平成八年一〇月二四日付で審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を受けた。

二  主たる争点

1  平成三年分の過少申告加算税の賦課決定処分について、国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」があると認められるか否か。

(一) 原告の主張

(1) 国税通則法六五条四項は、修正申告又は更正に基づき新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、正当な理由があると認められるものがある場合には、その部分について過少申告加算税を賦課しない旨を定めている。

(2) 原告は、伊藤惠一税理士(以下「伊藤税理士」という。)に依頼して、平成三年の確定申告をしたところ、後日、原告が所有していた株式(以下「本件株式」という。)の譲渡にかかる所得金額の計算誤り等の指摘を受けたことから、これらを是正した平成三年分の所得税の修正申告書を提出した。

しかしながら、本件株式の譲渡に係る所得金額の計算誤りは、次の(3)のとおり、税務署職員が伊藤税理士に誤った指導をしたことに基づくものであり、計算の誤りについて、国税通則法六五条四項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するので、これに対して過少申告加算税を課すことは許されない。

(3) 平成三年分の過少申告がなされた事情は次のとおりである。

イ 伊藤税理士は、原告が提示した資料に基づいて確定申告書を作成しようとしたが、分離課税の所得金額については租税特別措置法が毎年のように変更され、通達等により実質的な変更が加えられるため税理士にとってもそのすべてを理解することは困難な状況にあることから、依頼者に対し不測の損害を与えることがないよう予め税務署の相談、指導を受けることにした。

ロ 伊藤税理士は、平成四年三月一三日、札幌北税務署二階の確定申告会場に行き、受付担当の統括官(同税務署個人課税第六部門統括官・大館政男。以下「大館統括官」という。)に対し、申告税額の検算を依頼した。

ハ 大館統括官は、伊藤税理士を相談会場の相談担当職員(小川裕史と思われる。以下「小川」という。)のところに案内し、相談に応じて検算するよう指示した。

ニ 小川は、伊藤税理士が示した確定申告書原案を検討した上、株式譲渡所得金額欄に記載されている二億三〇五二万九八八八円を一億一五二六万四九四四円と鉛筆書きで訂正した。

ホ 伊藤税理士は、相談担当職員の検算による指導であるから、租税特別措置法により二分の一とされる事例に該当するものと推測し、右指導に従って確定申告を行った。

ヘ しかるに、被告は後日、右二分の一にする規定の適用がないことを理由にして修正申告を勧告し、これに応じた原告に対して過少申告加算税の賦課決定処分を行ったものである。

(二) 被告の主張

(1) 原告は、伊藤税理士が平成四年三月一三日札幌北税務署二階の確定申告会場に赴いた旨主張するが、同日の「資産税関係受付簿」には、原告ないし伊藤税理士の氏名の記載はなく、伊藤税理士が同日、同会場に赴いた事実を認めることができない。

(2) 国税通則法六五条四項所定の「正当な理由がある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して申告時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い、修正申告をし、又は更正を受けるに至った場合とか、災害又は盗難などに関し申告時には損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金などの支払を受け、又は盗難品の返還を受けるなどのため修正申告をし、又は更正を受けるに至った場合などのように、申告時においてはその当時の状況に照らして適法と認められるべきであった申告が、その後の事情の変更等により、納税者の故意過失に基づかないで当該申告が過少となった場合など、当該申告が真にやむを得ない理由によると認められる場合をいうものと解されている。

したがって、仮に伊藤税理士が札幌北税務署に赴き職員の指導を受けたとしても、申告相談の場は、納税者が申告する際に適正な申告がなされるよう指導することを目的とする行政サービスの場であって、税務署側は具体的な調査を行うことなく、相談者の提出する資料や主観的な申立て等の範囲内でこれに応じ、一応の判断を示すにすぎないものであり、これによって相談者を拘束するものではないことから、税務署の指導に過誤があったとして一方的に非難する原告の主張は、主張自体失当である。加えて、原告の申告行為は、そもそも自己の判断と責任において行うべきものであり、納税者が自己の申告手続等を税理士に依頼した場合には、税理士が行った申告手続等の効果は当該納税者に帰属するところ、正当な税務計算及び法令の適用解釈の判断は、まさに税の専門家たる税理士の職責であるから、本件について、国税通則法六五条四項所定の「正当な理由」が存しないことは明らかである。

(3) 過少申告加算税の賦課決定処分の計算根拠

平成三年分の過少申告加算税の賦課決定処分は、修正申告をしなければならないように適正な申告をしなかった原告に対し、国税通則法六五条一項の規定に基づき、同年の所得税に係る修正申告により増加した税額一七八三万円(修正申告により納付すべき税額三九八四万七五〇〇円と確定申告額二二〇一万五七〇〇円との差額で、かつ、同法一一八条三項により一万円未満を切り捨てた金額)に一〇〇分の一〇の割合を乗じた金額一七八万三〇〇〇円を賦課決定したものであるから適法である。

2  本件土地の売買価格(平成四年分の更正処分等について)

(一) 原告の主張

(1) 原告は、平成四年一月一六日、同人が所有する札幌市中央区南三条東六丁目一番六の土地(以下「本件土地」という。)を代金七二九八万円で株式会社三井(以下「三井」という。)に譲渡した。これに対して被告は、本件土地の売却代金を一億四二九八万円であると認定して、これを分離課税の短期譲渡所得として三八三七万一八〇〇円の本税を課し、併せてこれに対する過少申告加算税として五四五万七〇〇〇円の賦課決定処分をした。

しかしながら、本件土地の売却価格は、七二九八万円であるから、更正処分は事実を誤認したものとして違法であり、これに伴う過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

(2) 確かに、原告と三井の間には、本件土地の売却代金を一億四二九八万円とする売買契約書(乙六)が存在するが、右代金中七〇〇〇万円は、原告と三井間の別の債権を便宜上加算したものである。その事情は次のとおりである。

イ 原告は、三井の代表取締役であり、三井の発行済株式五一万二五九九株中三三万二四九九株を所有していたが、平成三年三月五日、取締役を退任するとともに、自己が所有する右三井の株式中三〇万七五六〇株を小笠原不動産株式会社に代金一九億一四五六万一〇〇〇円(一株当たり六二二五円)で譲渡した。これは、原告が三井のメインバンクである株式会社北海道銀行の要請によって三井につき小笠原不動産株式会社による企業買収に応じたものである。

ロ 三井は、札幌市の薄野で「日本料理店金閣」を経営している有限会社金閣(以下「金閣」という。)の全持分を有していた。

原告は、小笠原不動産株式会社から、「三井は不動産業者であり、飲食店部門(金閣)の経営は困難なので引き取ってほしい」と依頼され、これに応じて、平成三年七月一日、三井が有する金閣の全持分の譲渡を受けた。

ハ 金閣の企業売買について、原告と三井(実質的には小笠原不動産株式会社)間において左の取決めがなされた。

<1> 金閣は、株式会社三井水産及び有限会社平成洒販(いずれも三井の子会社で三井とともに企業買収の対象となった。)に対して債務を負担していたが、直ちにこれを精算し、弁済する。

<2> 金閣が「日本料理店金閣」において使用している造作設備中には、三井及び株式会社三井水産が第三者との間において割賦販売及びリース契約を締結している物件が含まれているので、金閤の企業売買に当たり、金閣がこれを繰上償還し、右リース料等債務を消滅させる。

<3> 「日本料理店金閣」の店舗は、三井が札幌公楽興業株式会社から同社所有の東宝公楽ビルの一部を賃借し、これを金閣が転借して営業していたが、金閣の企業売買の後は、金閣と右札幌公楽興業株式会社との問において直接賃貸借契約を締結する。

これに伴い、金閣は、三井が札幌公楽興業株式会社に差し入れていた保証金一八六九万七五〇〇円と敷金八〇七万七三二〇円を同社に差し入れ、三井は、右敷金等の返済を受ける。

<4> 金閣が、右の債務を直ちに返済等するための資金として、原告は金閣に一億四〇〇〇万円を貸し付ける。

以上の原告と三井間の取決めは、要するに、三井が金閣に対して有していた債権及び負担の一切を原告が金閣に貸し付けた一億四〇〇〇万円によって解消し、その上で金閣を原告に引き渡すというものであった。

ニ 原告は、金閣の営業を開始してみると資産及び営業収支の内容が予想以上に悪いことが判明したので、三井に対し、次のとおり申し入れた。

<1> 原告が金閣に対して貸し付けた一億四〇〇〇万円は、金閣に対する原告の債権として残っているが、金閣は原告が全持株を有している会社であるから、結局、原告の負担によって、三井関係会社は金閣に関する一切の負担(貸付金の回収不能、保証債務の履行、保証金の没収等)を免れたことになる。

<2> ところが、金閣は、もともとこれら三井関係会社の負担を解消させる能力を有しなかったから、三井及び関係会社は実質的に原告の負担で利益(負担の消滅)を得たことになる。

<3> よって、その補償を求める。

ホ この補償に関する原告と三井との話し合いは、平城三年一二月までの間に一〇数回にわたって行われた。この話し合いにおいて、本件土地の売買代金価額の話し合いも行われたが、その内容は、次のとおりである。

<1> 前記三井の企業買収に当たり、原告と小笠原不動産株式会社との間で、将来適当な時期に、小笠原不動産株式会社又は三井が本件土地を買いとる旨の取決めがなされていたが、その価額については決められていなかった。

しかし、原告はできるだけ高く買ってもらいたかったので、国土法による届出によって勧告が出ない上限価額を求めていた。そして、平成三年一二月二五日には、この上限価額が一億四二九八万三九〇六円であることが明らかになった。したがって、同年一二月の時点で、他に何らかの事情がなければ、この価額で売買契約が締結される状況にあった。

<2> この当時の原告の三井に対する要求は、右価額による本件土地の買入と前記一億四〇〇〇万円の半分である七〇〇〇万円の補填要求であった。しかし、三井は、当時北海道銀行の管理を受けていることを理由とし、同行が土地代金については承認しているが、損失の補填は認めないと言って、原告の要求に応じなかった。

<3> そこで、原告はやむを得ず、北海道銀行が一億四二九八万三九〇六円の支払を認めているのならその枠内でこの問題を処理することとし、七〇〇〇万円の損失補填は求めるが、その分だけ土地代金を減額し、これによって軽減される譲渡所得税をもって実質的損害填補にすると提案した。

<4> 三井はこれを了承したが、北海道銀行に支払を承認させる都合上、本件土地の売買契約については、代金額を一億四二九八万三九〇六円とする契約書を作成してほしいと申し入れてきた。原告は、便宜的な方法としてこれを了承した。したがって、この時点で、本見地土地の譲渡代金は七二九八万三九〇六円に確定した。

<5> これらの話し合いがまとまったのは平成四年一月一〇日頃であるが、原告はもともと譲渡所得税の支払時期を平成五年にしたいと考えていたため契約締結を遅らせていたが、平成四年に入りこれ以上契約締結を遅らせる理由がなくなったので、同年一月一六日に、本件土地譲渡に係る売買解約書を作成した。

(二) 被告の主張

(1) 更正処分の計算根拠

イ 更正処分の基となった分離短期譲渡所得等の状況は、別表2(5)ないし(7)のとおりであり、要するに、原告が平成四年一月一六日に、三井に対して譲渡した本件土地の売買代金が一億四二九八万円と認められるところを、七二九八万円と申告しており、分離短期譲渡所得の収入金額が七〇〇〇万円計上漏れとなっていたものである(なお、雑所得〔受取利息収入〕一二四七万二〇五四円も確定申告において全額、計上漏れとなっていたが、修正申告において計上されるに至ったので、更正処分の対象となっていない。)。

ロ 右をもとに、納付すべき税額を計算すると、次のとおり三八三七万一八〇〇円となる(別表1)。

<1> 総所得金額 一五六七万九〇九七円

右金額は、利子所得の金額一二九七万一四四八円、給与所得の金額九八七万六二五〇円及び雑所得の金額一二四七万二〇五四円を合計し、所得税法六九条一項の規定により、不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額一九六四万〇六五五円を控除した後の金額である。

<2> 分離課税の短期譲渡所得金額 六七九四万四二六八円

右金額は、分離課税の短期譲渡所得の損失金額二〇五万五七三二円に、当該資産の譲渡に係る収入金額の計上漏れ七〇〇〇万円を加算することによって、譲渡益が六七九四万四二六八円となったものである(別表2)。

<3> 分離課税の長期譲渡所得金額 八六万八三六六円

なお、分離課税長期譲渡所得の計算に当たり、長期譲渡所得の特別控除額八六万八三六六円(租税特別措置法三一条三項に規定する金額)を控除することから、分離課税の対象となる課税長期譲渡所得の金額は、〇円となる。

<4> したがって、納付すべき税額は、以下のとおりである。

(a) 原告の平成四年分の所得税法七二条から八六条までに規定する所得控除の合計額は、二一四万八七六〇円であるところ、所得税法八七条二項及び租税特別措置法三二条四項(同法三一条四項二号参照)により、これを、前記<1>の総所得金額一五六七万九〇九七円から控除するから、課税総所得金額は、一三五三万円(国税通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数の金額を切り捨てた金額)となる。また、右<2>のとおり、分離課税短期譲渡所得金額は、六七九四万四〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数の金額を切り捨てた金額)となる。

(b) 課税総所得金額一三五三万円に対する所得税の額は、所得税法八九条一項の規定により算出すると三五一万二〇〇〇円となる。

(c) 分離課税短期譲渡所得金額六七九万四〇〇〇円に対する所得税の額は、租税特別措置法三二条一項の規定により、次の(イ)(ロ)の金額のうち、いずれか大きい金額であるから、次の(ロ)の三六三八万二五〇〇円となる。

(イ) 同項一号の規定により、分離課税短期譲渡所得金額の一〇〇分の四〇に相当する金額

二七一七万七六〇〇円

(ロ) 同項二号及び同法施行令二一条二項の規定により、所得税法三三条三項一号に該当する譲渡所得の金額として分離課税短期譲渡所得金額六七九四万四〇〇〇円から同条四項に規定する譲渡所得の特別控除額五〇万円を控除した金額六七四四万四〇〇〇円と、右(a)の課税総所得金額一三五三万円を合計した金額八〇九七万四〇〇〇円を課税総所得金額とみなし、当該課税総所得金額に対する所得税の額を所得税法八九条一項の規定により算出すると三六五八万七〇〇〇円となり、右(b)の課税総所得金額に係る所得税の額三五一万二〇〇〇円を控除した金額三三〇七万五〇〇〇円の一〇〇分の一一〇に相当する金額 三六三八万二五〇〇円

(d) 納付すべき税額は、右(b)の三五一万二〇〇〇円に右(c)の三六三八万二五〇〇円を加算した金額三九八九万四五〇〇円から源泉徴収税額一五二万二六〇八円を控除した額三八三七万一八〇〇円(国税通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数全額を切り捨てた金額)となる。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分の計算根拠

イ 過少申告加算税の基礎となる税領

平成四年分の過少申告加算税の基礎となる税額は、国税通則法二八条二項三号イに掲げる更正処分に基づき新たに納付すべき税額(国税通則法三五条二項二号に規定する納付すべき税額)であるところ、更正処分前の納付すべき税額(修正申告に係る申告納税額)一九八万九三〇〇円が、更正処分に係る納付すべき税額三八三七万一八〇〇円となったのであるから、新たに納付すべき税額は、三六三八万二五〇〇円であり、国税通則法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数金額を切り捨てることから、過少申告加算税の基礎となる税額は、三六三八万円となる。

ロ 過少申告加算税の額

<1> 右イの過少申告加算税の基礎となる税額に対して、国税通則法六五条一項の規定に基づき、一〇〇分の一〇の割合を乗じた金額は、三六三万八〇〇〇円となる。

<2> さらに、本件では更正処分前に修正申告書の提出があることから、いわゆる加重分の過少申告加算税の問題が生じるところ(国税通則法六五条二項)、「加算税の基礎となる税額」三九七八万八六〇〇円(ただし、国税通則法一一八条三項の規定による一万円未満の端数金額を切捨てる前の金額三六三八万二五〇〇円に、修正申告に基づき国税通則法三五条二項の規定により新たに納付すべき税額三四〇万六一〇〇円を累積増差税額として加算した金額である。)が、平成四年分の所得税に係る期限内申告税額に相当する金額一〇万五八〇〇円(ただし、期限内申告書の申告納税欄には、還付金の額一四一万六八〇八円が記載されていることから、右還付金の額を控除し、国税通則法六五条三項二号イに掲げる源泉徴収税額一五二万二六〇八円を加算した金額に相当する金額である。)及び五〇万円のいずれをも超えるものであるから、いわゆる加重分の過少申告加算税の額を計算することとなる。

右加重分の加算税の額は、更正処分に基づき新たに納付すべき税額三六三八万二五〇〇円が、右の「加算税の基礎となる税額」三九七八万八六〇〇円のうち、五〇万円を超える部分に相当する税額三九二八万八六〇〇円に満たないことから、右の新たに納付すべき税額三六三八万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てた金額)に一〇〇分の五の割合を乗じた金額、一八一万九〇〇〇円となる。

<3> したがって、過少申告加算税の額は、右<1>の三六三万八〇〇〇円に右<2>の一八一万九〇〇〇円を加算した金額、五四五万七〇〇〇円となる。

(3) 本件土地の売買価格に関する被告の主張

イ 本件土地の売買契約に関する一連の経緯について

本件土地の譲渡に関して、原告と三井との間において売買契約書(乙六)が作成、取り交わされた経緯は次のとおりである。

<1> 原告及び三井は、原告が保有する三井に関する資産を三井に対して譲渡するとの合意に基づき、本件土地の売買に関して、平成三年七月四日、本件土地の売買予定対価の額を二億九〇四二万一〇八六円とする国土利用計画法に基づく「土地売買等届出書」(乙一三、以下同法に基づく土地売買等届出書を「国土法に基づく届出書」という。)を札幌市長に対し提出したところ、価格是正の行政指導を受けたため、同月二四日、予定対価の額を一億四七四五万六三四六円として「国土法に基づく届出書」(乙一四)を提出し、同日付けで不勧告の「通知書」(乙一五の1及び2)を受けている。

<2> その後、本件土地の売買契約が遅れていたことから、三井の専務取締役長崎昇司は、平成三年一〇月二六日付けで、本件土地につき三井が国土法不勧告の価額以内で購入すること及び購入時期は別途協議する旨の確約文書(乙一六、以下「本件確約書」という。)を原告に対して差し入れた。

<3> 原告及び三井は、本件土地の売買契約が遅れたことから、改めて平成三年一二月一〇日、本件土地の売買予定対価を一億四七四五万六三四六円とする「国土法に基づく届出書」(乙一七)を提出したところ、価格是正の行政指導を受けたため、同月二五日、予定対価の額を一億四二九八万三九〇六円として「国土法に基づく届出書」(乙一八)を提出し、同日付けで不勧告の「通知書」(乙一九の1及び2)を受けている。

<4> そこで、原告と三井は、本件確約書に基づき、平成四年一月一六日付けをもって、本件土地の売買価格を一億四二九八万円とする売買契約書(乙六)を作成の上、取り交わし、同月二一日、三井は、北海道銀行月寒支店の原告本人名義の普通預金口座に右金額を振り込んだ(乙八の1及び2)。

<5> 以上のとおり、平成三年七月には、既に国土法に基づく届出をし、これに対する価格是正を受けると直ちに是正額による届出書を提出していること、本件確約書において、本件土地を国土法不勧告の価格以内で購入する旨確約していることからすると、本件土地の売買に係る真の合意は、当初から、本件土地の価格を国土利用計画法に基づく不勧告通知の価格(以下「国土法不勧告価格」という。)とすることになっていたことが明らかであり、本件土地の売買価格について、当初から合意していたとおり国土法不勧告価格を基に決定され、原告及び三井が署名押印した売買契約書(乙六)は、真正に作成されたものと認めるのが相当である。

<6> なお、原告が主張する本件土地の価額七二九八万円については、その算定根拠が明らかでないばかりか、原告及び三井が、右七二九八万円と取り決めたことをうかがわせる事実はないのであるから、原告の右主張は採用できない。

ロ 金閣の経営権譲受けについて

原告は、七〇〇〇万円が譲渡価格でないことについて、右七〇〇〇万円が金閣の譲受けについて何らかの関係があるかのごとく主張している。しかし、金閣の経営権譲受けの経緯は次のとおりであり、原告の右主張は事実に反する。

<1> 原告、三井及び金閣の三者は、平成三年八月一日付けで、次の内容の「持分譲渡契約書」(乙二〇)を取り交わしている。

(a) 三井は、三井が有する金閣の持分一〇〇〇万円を原告に対し、無償で譲渡する。

(b) 原告は、金閣に対し、一億四〇〇〇万円を貸し付ける。

(c) 金閣は、原告からの借入金をもって三井、三井の関連会社(株式会社三井水産、有限会社平成酒販)に対して有する債務を返済する。

(d) 金閣の債務は、平成三年七月末日現在で精算し、本契約書に定める他には相互に債権債務のない状態とする。

<2> 右「持分譲渡契約書」によれば、金閣と三井及び三井の関連会社との間の債権債務については、平成三年七月末日現在で確定させて精算し、この他に債権債務のない状態にする旨定められており、原告が三井から金閣を譲り受けるに際して、三井が何らかの意味で原告ないし金閣に対し七〇〇〇万円を補てんする旨の記載はなく、三井が補てんすべき事情は一切存しないのである。

<3> 原告は、原告が金閣に貸し付けた一億四〇〇〇万円の半分である七〇〇〇万円を三井が原告に補てんすることになったと主張するが、右のとおり金閣との関係を精算した三井が右貸付金の半分を補てんするという趣旨が不明である上、原告の金閣に対する貸付金債権が依然として一億四〇〇〇万円として存在しているのであるから、原告の右主張は措信できない。

ハ なお、原告が主張する損失補てん金として記載があるものに次の書類が存在する。

<1> 平成五年五月一一日付け事実関係の確認についてのお願い(乙二一)

<2> 平成五年五月二〇日付け確認書(乙二二)

<3> 平成五年一〇月一三日付け合意書(乙二三)

<4> 平成五年一〇月一三日に作成された平成四年一月一六日付け営業譲渡に関する特約(乙二四)

しかしながら、これらはいずれも平成四年分の所得税に関する国税庁による調査の過程で、本件土地譲渡の収入金額について申告額と相違するとの指摘を受けた後に、作成されたものであり、その内容をみても、三井が損失補てん先としているのは金閣であるから、原告が補てんを受けるとの主張と相違しているものである。

(4) 以上のとおり、本件土地譲渡と金閣の譲受けは、同時期に行われたものであるが、別個独立の取引であり、本件土地売買契約の契約書(乙六)記載の売買価格に本件土地の価額以外の七〇〇〇万円が含まれるということはあり得ず、原告の、本件土地の価額は七二九八万円であり、損失補てん金の七〇〇〇万円を加えたものであるとする主張は、算定根拠の不明確な数字をもってするつじつま合わせにすぎず、本件土地の真実の売買価格は一億四二九八万円であるというべきであるから、これに基づいてした更正処分等は適法である。

3  本件土地売買に係る必要経費について

(一) 原告の主張

平成四年分の更正処分等に当たり、被告は、本件土地売買に係る必要経費を六七九四万四二六八円と認定している。しかしながら、本件土地に関する必要経費は、次のとおり八四五七万七〇九五円であるから、更正処分は事実を誤認したものとして違法であり、これに伴う過少申告加算税の賦課決定処分も違法である(以下「本件追加主張」という。)。

本件土地に関する必要経費は、次のとおりである。

イ 前提事実

本件土地(札幌市中央区南三条東六丁目一番六)は、もともと同番一六及び同番一七の両土地を含む六五〇平方メートル〇四の土地であったが、登記簿上の所有名義人であった佐々木信雄によって、右の二筆の土地が左のとおり分筆された。なお、佐々木信雄は、分筆後の同番一六の土地は、株式会社佐々木信雄建具店が所有していると主張していた。

分筆後の地番 地積 分筆日

同所一番一六 一三二平方メートル二四 昭和六二年五月一一日

同所同番一七 一九九平方メートル三四 昭和六二年六月 五日

ロ 原告は、昭和六二年三月一二日に、右各土地を次のとおりの約定で買い受けた。

<1> 目的物件 右一番六及び一番一七の土地及びその土地上の建物

売主 佐々木信雄

代金額 七六四八万円

<2> 目的物件 右一番一六の土地及びその土地上の建物

売主 株式会社佐々木信雄建具店

代金額 七六〇〇万円

ハ 原告は、右各不動産を取得し、老朽化していた右建物を取り壊したが、その建物解体費用を含む右売買に関する諸経費は左のとおりである。

<1> 不動産仲介料 四〇〇万円

<2> 建物解体費用 二〇九万三五〇〇円

<3> その他費用 九二〇万四二九一円

<4> 登記料 四三三万六七七〇円

ニ 原告は、平成二年七月一七日に、前記土地六五〇平方メートル〇四のうち三三〇平方メートル五八(同番一六及び一七の各土地)について、有限会社オートガラス所有地と等価交換した。等価交換した地積の全地積に対する割合は五〇・八六パーセントであり、したがって、残部である本件土地の割合は、四九・一四パーセントである。

ホ 本件土地の購入原価及び諸経費の合計額は、一億七二一一万四五六一円であるから、本件土地の取得原価は右一億七二一一万四五六一円の四九・一四パーセント相当の八四五七万七〇九五円である。

(二) 被告の主張

原告の本件追加主張は、自白の撤回に当たり、また、時機に後れたものであるから却下されるべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(平成三年分の過少申告加算税の賦課決定処分について、国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」が認められるか否か。)について

原告は、右「正当な理由」が存在するとする前提として、原告の依頼した伊藤税理士が税務署職員の誤った指導に基づいて確定申告書を提出してしまった旨主張するが、本件全証拠によるも右前提を認めることはできない。すなわち、原告の右主張に沿う証拠としては、甲一(伊藤税理士の陳述書)及び証人伊藤惠一の証言があるのみであって、これらの供述証拠を裏付ける的確な証拠は提出されていない。加えて、伊藤税理士は、伊藤税理士を相談員の所に案内した大館統括官について、当初、大館統括官は受付にいた旨供述していた(甲一、乙一)にもかかわらず、被告から平成四年三月一三日の受付当番は大館統括官ではなかった旨指摘されると(乙一二)、大館統括官が階段上の食堂から出てきたところに廊下で偶然に出会った旨供述を変遷させていること(証人伊藤惠一の証言)、伊藤税理士は、株式譲渡に係る税額の検算を受けるため、担当の税務職員である小川に相談をしたと言いながら、所得額が二分の一になるとの小川の説明に疑問を感じたもののこの点について何ら問い質すことをしなかったと供述しており(証人伊藤惠一の証言)、伊藤税理士が専門家であることを考慮するとその供述内容は不自然といわざるを得ないこと、以上の事実に照らすと、伊藤税理士のこの点に関する供述は信用性が乏しいといわざるを得ない。そして、大館統括官及び小川が、いずれも、伊藤税理士と右のようなやりとりをした記憶がない旨供述していることを考慮すると(乙一〇、一一)、証人伊藤惠一の前記証言のみで伊藤理士が小川から誤った指導を受けた旨の原告の主張を認めることはできない。

したがって、原告の右主張は、その前提を欠き、採用できない。

そして、被告が主張する過少申告加算税の賦課決定処分の計算根拠に誤りはないから、平成三年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

二  争点2(一)(本件土地の売買価格)について

1  乙第六号証(不動産売買契約書)によれば、本件土地の売買価格は、一億四二九八万円であると認めることができる。

2  原告は、右契約書に記載された代金のうち七〇〇〇万円は、原告と三井間の別の債権を便宜上加算したにすぎない旨主張するので、その点について検討する。

原告の右主張に沿う証拠としては、乙二一(三井の代表取締役丹征吉作成の平成五年五月一一日付けの原告宛事実関係確認書)、二二(三井の代表取締役丹征吉作成の同月二〇日付けの札幌国税局長宛確認書)、二三(原告と三井との間の同年一〇月一三日付け合意書)及び二四(原告、三井及び金閣の平成四年一月一六日付け営業譲渡に関する特約。ただし、作成日は平成五年一〇月一三日。)が存在する。しかし、(一)これらの書類はいずれも、札幌国税局による調査開始後に、本件土地譲渡の収入金額について、申告額と相違するとの指摘を受けた後に作成されたものであること(当事者間に争いがない)、(二)三井側が右各書面の作成に応じたのは、平成四年の夏頃から、金閣の経営状態の悪いことが明らかになっていたところに、平成五年の四月以降、原告に本件の税務問題が発生し、原告の提示した確認事項を飲まない限り、原告から金閣に係る企業売買を解除されかねないことを懸念したためであり、三井としては、契約当時、本件土地の売買価格は一億四二九八万円であると考えていたこと(証人長崎昇司、乙二五、二七)、(三)平成三年一二月二五日頃の時点で、本件土地の売買価格は、国土法不勧告価額である一億四二九八万円程度と合意されていたと認められるところ(乙一六、一八、一九の1、2、弁論の全趣旨)、原告自身も、その後の同月末頃、本件土地の代金を約七〇〇〇万円に減額してほしい旨の申入れをしたが、結局、三井側から正式に了承した旨の回答をもらっていない旨自認していること(原告本人尋問)、以上の事実に照らすと、乙二一ないし二四の記載内容の信用性は乏しいといわざるを得ず、これらをもって前記認定を左右することはできない。

三  争点2(二)(本件追加主張の許否)について

1  原告は、本件土地の取得原価は、八四五七万七〇九五円であるから、これを七六九四万四二六八円であるしてされた平成四年分の更正処分等は違法である旨主張し(本件追加主張)、被告は、本件追加主張は時機に遅れたものとして却下されるべきであると主張するのでこの点について判断する。

2  被告は、第二回口頭弁論期日(平成九年五月九日)において、準備書面(一)を陳述して、平成四年分更正処分等の基礎となった事実を、本件追加主張に係る分離課税の短期譲渡所得に関する必要経費を含めて明らかにした。原告は、その後も、平成四年分更正処分等については、本件土地の譲渡価格の認定を争うのみで、その取得原価については明らかに争っていなかった。しかるに、証人伊藤惠一の尋問(第一〇回口頭弁論期日・平成一〇年七月一七日)、原告本人尋問(第一一回口頭弁論期日・平成一〇年一〇月三〇日)を終え、最終準備書面の提出が予定されていた、第一三回口頭弁論期日(平成一一年一月二二日)において、本件土地の取得原価に係る被告の認定に疑義がある旨の主張を追加するに至った(記録上明らかである。)。

3  本件は、課税処分に係る取消訴訟であるところ、本件追加主張は、課税処分の基礎とされた本件土地の取得原価につき課税処分の基礎とされた事実と異なる事実を主張しようとするものであるから、被告において課税処分の基礎とされた事実を主張した日(本件では平成九年五月九日である。)以後遅滞なくその異なる事実を主張し、あわせてその事実を証明すべき証拠を提出すべきであったのであり、本件では原告において右主張及び証拠の提出を遅滞なくすることができなかった事情について主張・立証しないから、本件追加主張は民事訴訟法一五七条一項にいう「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」に当たるといわざるを得ない(国税通則法一一六条)。

そして、本件追加主張をした第一三回口頭弁論期日においても、その主張の内容自体に不明確な点が残っている上、原告が本件追加主張の立証にさらに日時を要する旨主張していることからすれば、右攻撃防禦方法の提出を許せば訴訟の完結を遅延させるものといわざるを得ないから、民事訴訟法一五七条一項により、本件追加主張を却下することとする。

4  なお、前記二の認定を前提とすれば、被告が主張する平成四年度の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の計算根拠に誤りはないから、右各処分はいずれも適法である。

四  結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林正 裁判官 福島政幸 裁判官 柴田誠)

別表1

課税状況等一覧表

<省略>

別表2

調査状況等一覧表

<省略>

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